2019年9月中旬の2日間、東京大学伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホールにて、難治性てんかんと重度発達障害を特徴とする神経難病「CDKL5欠損症」をテーマとしたワークショップがアジアで初めて開催されました。このワークショップには、国内外の研究者はもとより、日本や英国の患者家族会の方々も参加され、中国や韓国からはインターネット中継を介して患者ご家族の参加が叶いました。

CDKL5とは、X染色体上のp22領域に位置する遺伝子CDKL5 (Cyclin-dependent kinase-like 5)によってコードされたリン酸化酵素 (キナーゼ) です。CDKL5遺伝子の突然変異によるCDKL5機能欠損は、生後3〜6カ月の乳児に点頭てんかんを始めとする治療抵抗性てんかんを引き起こし、重度の知的・運動発達遅滞、大脳性視覚障害、睡眠障害、自律神経障害といった、重い神経発達・機能障害を来します (発生率は1/40,000-50,000出生児)。患児は自閉症様症状、常同運動などのレット症候群 (主にMeCP2遺伝子変異による神経発達障害) に類似の症状を示すことから、以前は非典型レット症候群と診断されていましたが、MeCP2遺伝子変異によるレット症候群との違いも徐々に明らかになり、より適した診断と治療が行えるよう、「CDKL5欠損症」という独立した疾患単位が近年提唱されました。

Vera Kalscheuer Tim Benke Helen Leonard Carol-Anne Partridge 田中 沙織 Majid Jafar


Maurizio Giustetto 田中 輝幸 Wenlin Liao Liqin Cao 梅森 久視 Priscilla Negraes


片山 将一 Alessandro Gozzi Tommaso Pizzorusso Michela Fagiolini Timothy Roberts Dan Lavery


Marina Trivisano


本ワークショップでは、1日目に原因遺伝子ならびにその欠損が与える脳の発達異常に関する基礎的な実験データの紹介や解説が研究者によってなされ、加えてコロラド大学付属小児病院での取り組みや、オーストラリアでの病態調査に関する詳細が解説されました。また、Loulou財団設立者をはじめとする各患者会代表の講演も3題続き、頻発するてんかん発作に苦しみ、また睡眠・行動障害を示す患児とともに暮らし支援する家族の苦悩も、会場の研究者や参加者に切実に訴えられました。2日目はCDKL5欠損マウス等を用いた基礎実験の進展が紹介され、そのなかから早期診断や介入に有用なバイオマーカーの開発などについても論じられ、ポスターセッションでは新しい研究成果も発表されました。最後には患者家族会を交えたセッションが行われ、アジア全体での結束を確認しあいました。

この度は、大学関係者だけでなく、患者家族会ならびに製薬企業からも多数ご出席いただくことで、多角的な視点から疾患について議論する大変貴重な機会となりました。疾患についての理解がより進み、患者やご家族の生活の質の向上につながるよう、IRCNも連携研究を深めていきます。

文責: IRCNサイエンスライティングコア 木村昌由美

*詳細につきましてはイベントページもご参照ください。