IRCNは4つの連携研究ユニットで構成され、“ニューロインテリジェンス”という新しい学問分野の創成を目指しています。その目標に向かい、各ユニットはそれぞれ他のユニットと共同研究することが求められており、マネジメント部門はそれに必要な研究方針の作成、技術的施設や交流プログラム等を提供しています。
発生/発達研究ユニットは脳神経回路が形成されていく仕組みを見つけ出すユニットです。 脳は、ニューロン(神経細胞)が多数のシナプスを介して複雑に連結した神経回路で構成されています。発生/発達研究ユニットは、この神経回路形成の原理を解明していきます。脳の神経回路は、出生までは基本的に遺伝子プログラミングに従って形成されますが、生育過程のある「限定された期間」の経験等に影響されて、新たなシナプスが生まれたり消失するなどカスタマイズされていきます。この期間を「臨界期」と呼んでいます。発生(生まれるまで)段階の研究では遺伝子プログラミングによる脳の成立の原理を、発達(臨界期)段階の研究では経験依存的、神経活動依存的に変わっていく神経回路の原理を、それぞれ見つけていくわけです。このユニットが見つけ出す様々な原理は、脳の臨床研究を行ううえでの大きなアドバイスとなり、脳の数理モデルを作っていくうえでの前提情報になります。いうなれば、発生/発達研究ユニットはIRCNの土台となるユニットです。
技術開発ユニットは脳の秘密を浮かび上がらせる新しい計測・分析の開発・提供を目指します。 技術開発ユニットは、脳のブラックボックスを解き明かしていくために必要な「道具」を開発していくユニットです。発生/発達研究ユニットやヒト/臨床研究ユニットの専門的研究を支えるべく、動物に遺伝子操作を加える方法、生理学的データの新たな記録法、脳の内部を非侵襲的にモニターできるイメージング法、画像解析ツールや顕微鏡、蛍光および生物発光プローブなど、単一ニューロンから脳全体におよぶ神経活動を計測・分析するための革新的な最先端技術を開発・提供します。新たな「道具」の開発は脳科学の次なる発見をうながす鍵となります。
計算論的研究ユニットは脳の仕組みを数理モデル化し、その原理に基づく次世代のA.I.を創り出すユニットです。 計算論的研究ユニットは、発生/発達研究ユニットと協力し、脳の神経回路形成の仕組みに基づいた計算・解析モデルやA.I.を創り出します。数理モデルならびにA.I.を活用することによりビッグデータの体系的解析を可能にし、さらにはそれらの知見をヒト/臨床研究ユニットが行う計算論的精神医学などの臨床応用に活かせるような研究を進めていきます。現在、精神医学では患者のデータから臨床医自らの経験に基づいて診断を行なっていますが、今後計算論的精神医学が発展するとビッグデータの時代にふさわしい「データを収集してモデル化することにより人間(臨床医)が認識できない診断力を生み出す」というアプローチが進んでいきます。計算論的研究ユニットの研究成果は新世代A.I.の創出とヒトの知性の理解に向けて大きく貢献していくことでしょう。
ヒト/臨床研究ユニットは発達過程に起因する脳の病気を探り、やがてはヒトの知性の起源に迫ります。 自閉症や統合失調症など若年者に多い精神疾患は、脳の発達初期に受けた何らかのストレスの影響で後々に発症することが分かってきています。ヒト/臨床研究ユニットでは、発生/発達研究ユニットが見つけ出した「脳の発達期の原理」を理解したうえで「脱線した発達(脳の病気)」を解明していきます。また、ヒト/臨床研究ユニットでは計算論的研究ユニットと協力し、高次脳機能障害を伴うコホート(患者群)に対して計算論的精神医学のアプローチを展開していきます。さらに、疾患状態にある脳の発達過程との対比もふまえて、健常人における脳の発達過程の研究も推し進めていきます。たとえば、言語習得において「どの時期にどのような教育を受けるとバイリンガルなどの認知機能を獲得できるのか」といった、脳の可能性をより広げるための研究を行います。それらの研究により得られた様々な知見をもって、人文社会科学、さらにはロボティクスも含めた脳神経科学に基づく工学技術とのコラボレーションを実現し、「人とは何か」、「人の知性はどのように生じるか」、「人はなぜ、自分の脳を使って自分を理解できるのか」といった哲学にも通底する究極の問いに迫っていきます。学術と社会を繋げるための研究もIRCNの重要な責務と考えています。
