日常の研究活動の場所からいったん離れ、他者や自分と向き合う時間を持ち、次にむけて新たな活力を得る特別な機会であるリトリート。IRCNにおいても昨年にひきつづき、6月8−9日の土日にかけて第二回目のリトリートを開催しました。そこでは、IRCNが掲げる学際領域「ニューロインテリジェンス」の創成にむけ、各分野の賢者(インテリジェンス)達が集い、まさしく「集合知(コレクティブ・インテリジェンス)」そのものを生み出す頭脳交流が繰り広げられました。

参加者は、IRCNのPI、AF、ポスドク、大学院生、そしてインターン研修で来日しているハーバード大学の学部生など、様々なキャリアステージの100名ほど。早朝本郷キャンパスを出発しバスで2時間ほど揺られてリトリート会場の「レクトーレ湯河原」という研修施設に集いました。

初日の基調講演では、本学数理・情報教育研究センター(MIセンター)・センター長の駒木文保教授が登壇されました。MIセンターのご紹介をはじめ、人文社会学をも含めた多様な領域に影響を持つ数理解析やデータサイエンスの重要性を述べられ、そしてご自身の研究成果として脳の情報処理メカニズムの理解にむけベイズ統計学にもとづく最新の知見をお話いただきました。



そのあと午後の時間を目一杯使い「ニューロインテリジェンス」が対峙するべきテーマに沿って、参加者全員が意見を交換するブレイクアウトセッションを90分勝負2ラウンド行いました。テーマの選定にあたっては、リトリート前に33名のPI・AFにお集まりいただきアイデアを共有したうえで、互いの関心度がマージしたアイデアを分類し、そこから抽象度を引き上げたものを、今回のリトリートで12個のテーマとして取り上げました。各テーマごとの分科会では、普段話す機会などない離れた異分野の研究者間で交流があり、また若手にとっては雲の上の存在の先生とも身近にディスカッションできる好機となりました。



夕食前のポスターセッションは、エネルギーが切れかけていたにもかかわらず、最新の成果を互いに共有するために熱心な議論が交わされていました。
夕食のあとは、IRCNに新しく着任する(した)新進気鋭の研究者達のフラッシュトーク(3分厳守)で盛り上がり、それに引き続き、IRCNの共同研究を奨励するコラボレーションアワードが、ヘンシュ機構長より3名の研究者(笠井清人先生、小池進介先生、森島陽一先生)に贈呈されました。パネルディスカッションでは、神経生物学(ヘンシュ貴雄先生)、心理学(下條信輔先生)、コンピューター科学(杉山将先生)の3名に登壇いただき、「What is intelligence?」をテーマに討論を行っていただきました。

翌日は、米国カリフォルニア工科大学教授で認知心理学がご専門の下條信輔先生による基調講演がありました。下條先生が牽引されてきた研究のなかでも、ハイパフォーマンスを生む集団の社会心理、社会相互作用、そして行動の確率論的同調性の問題に、聴衆は高い関心を向けていました。



その後は、前日のブレイクアウトセッションのまとめを、各テーマのスポークスパーソンが5分のフラッシュトークで発表することで、アイデアを全員で共有しました。

今回のリトリートを経て、ご参加いただいた皆さんの心のなかに何か新しい「知」は芽生えたでしょうか。さて、これから次なるアクションプランがどのように展開されるのかが正念場になっていきます。皆で生み出す「集合知」。そのパフォーマンスを最大限に高められるよう、IRCNは邁進してまいります。


文責・IRCN研究戦略室 山口