2025年12月8日、東京大学本郷キャンパス・福武ホールにて、シンポジウム「Infant Language Development Research in the 21st Century」が開催されました。本シンポジウムは、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI–IRCN)とJEWELプロジェクトの共催により実施され、乳児の言語発達をめぐる最先端の研究成果を、行動科学・神経科学・計算科学の観点から統合的に議論する場となりました。
冒頭では、JEWELプロジェクト研究代表者の馬塚れい子教授(IRCN連携研究者)より開会挨拶が行われ、近年の神経科学的手法や計算モデルの進展により、従来の行動研究と結びついた新たな言語発達研究の可能性が広がっていることが強調されました。
午前の基調講演では、乳幼児の言語習得と音声知覚研究を牽引してきたJanet F. Werker教授(ブリティッシュ・コロンビア大学)が登壇し、乳児が生得的に備える多言語的な音声知覚能力と、経験を通じて母語特有の音韻構造へと適応していく発達過程について紹介しました。初期の音声知覚がその後の語彙獲得や言語発達全体に長期的な影響を及ぼすことが示され、言語発達を脳・身体・社会的環境の相互作用として捉える重要性が強調されました。
続いて馬塚れい子教授は、日本語を母語とする乳児を対象とした研究をもとに、言語間の多様性が言語獲得過程にどのような影響を与えるのかを検討しました。日本語特有のモーラ構造やリズムが、乳児の音韻識別の発達に独自の時間的特性をもたらすことが示され、言語普遍性と個別言語特性の双方を考慮した研究の重要性が議論されました。
午後のセッションでは、IRCN の機構長であるTakao K. Hensch教授(ハーバード大学医学部)が臨界期の神経生物学的基盤について講演し、脳回路の可塑性が発達のタイミングに強く依存することを動物研究とヒト研究の両面から示しました。また、皆川泰代教授は、母子間相互作用と神経多様性に着目した縦断研究を紹介し、乳児期の社会的経験や母子間の神経同期が、その後の言語・社会発達に深く関与することを明らかにしました。
さらに、Alex Warstadt教授およびEmmanuel Dupoux教授は、近年急速に発展する計算言語モデルやAIを用いた研究が、人間の言語発達理論の検証にどのように貢献し得るかを論じました。とくに、乳児に近い制約条件下で学習する「ベビー言語モデル」を通じて、言語獲得における学習効率や臨界期、環境の役割について新たな視点が提示されました。
各講演後には活発な質疑応答が行われ、会場からは多くの質問や意見が寄せられました。シンポジウムの最後には、登壇者全員が参加する総合討論が行われ、学際的研究の可能性と課題について意見交換がなされました。
本シンポジウムは、行動科学・神経科学・計算科学を横断する対話を通じて、乳児言語発達研究の将来像を描き出す機会となりました。言語という人間の根源的能力を理解するための統合的科学の構築に向けて、分野横断的な連携の重要性を改めて示す一日となりました。
JEWEL Project: https://lang-dev-lab.brain.riken.jp/jewel/
IRCN Babylab: https://babylab.ircn.jp/
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