【多種類でかつ短時間の観測データでも高い精度で将来を予測】
~洪水などの自然災害をはじめとして様々な予測に応用へ~

1. 発表者:

奥野 峻也(東京大学 生産技術研究所 民間等共同研究員/株式会社構造計画研究所 室長)
合原 一幸(東京大学 生産技術研究所 教授/ニューロインテリジェンス国際研究機構 副機構長)
平田 祥人(研究当時:東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授/ニューロインテリジェンス国際研究機構、現:筑波大学 システム情報系 准教授)

2. 発表のポイント:

◆これまでの人工知能(AI)による予測技術では困難であった、多種類かつ短時間のデータから将来を予測する数理的手法を開発した。
◆異なる複数の予測手法を効果的に統合することにより構成され、多種類の変数がある場合の変数選択やネットワークの設計等の事前の作業を行う必要がない。
◆複数の数理モデル、さらに実際の河川水位データに対して予測を行い、本手法の有効性を確認した。今後は洪水などの自然災害をはじめとして、医学、エネルギー、製造業など幅広い分野への応用に向けて検討を進めていく予定である。

3.発表概要:

東京大学生産技術研究所の奥野峻也民間等共同研究員、合原一幸 教授、大学院情報理工学系研究科の平田祥人 准教授(研究当時、現:筑波大学システム情報系准教授)らの研究チームは、多種類の変数が混在する短時間の観測データから、力学系理論にもとづきターゲットとなる変数を高精度に予測する手法を開発しました(図1)。本手法は、異なる複数の予測手法を効果的に統合することにより構成され、事前に変数選択やネットワークの設計等の作業を行うことなく、短時間の観測データしか得られない場合でも良好な予測を行うことができます。気象の数理モデルのほか、実際の河川水位データを使い本手法の有効性を確認しました(図2)。今回、開発した手法は、洪水などの自然災害をはじめ、医学、エネルギー、製造業など幅広い分野への応用が期待されます。
この成果は、2020年1月20日にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載されました。
なお、本成果は本論文の投稿に先立ち、東京大学と株式会社構造計画研究所から特許申請されています(発明の名称:時系列予測装置、時系列予測方法及びプログラム 出願番号:特願2018-042456)。本研究の一部は、株式会社構造計画研究所、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI 15H05707)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED JP19dm0307009)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST CREST JPMJCR14D2)の助成を受けたものです。

4.発表内容:

■背景
 近年、人工知能(AI)による予測技術が急速に進展しています。他方で、現在のAIにおいて中心的な役割を果たしているディープラーニングを時系列データの予測に適用する場合、計算時間やネットワークの設計に要する時間が課題となっていました。加えてその利点を活かすためには大量のデータが必要とされますが、特に自然災害分野では長時間の時系列データの入手は困難であり、少量のデータしか得られない場合の予測精度に課題がありました。またAIによる予測を行う場合、多種類の変数がある場合はどの変数を採用するかによって精度が左右されるため、変数の選択に多大な時間を要していました。

■内容
 東京大学 生産技術研究所と構造計画研究所では、2016年から社会連携研究部門「未来の複雑社会システムのための数理工学」にて共同研究をしてきました。本研究チームは、多種類の変数が混在するデータから、力学系理論にもとづきターゲットとなる変数を高精度に予測する手法を開発しました。本手法は、観測データがその背後に存在する決定論的な法則から生成されると仮定し、「埋め込み」と呼ばれる数理的手法によって観測データだけから元の法則の特性を再構成し予測します。加えて本手法では、異なった複数の埋め込みによる予測結果を効果的に組み合わせることで、少量のデータや多種類の変数があるデータにおいても高精度に予測できます。その際、事前に変数選択やネットワークの設計等の作業を行う必要はありません。

■効果
研究チームは、新たに開発した手法を複数の数理モデルに適用し、既存手法と比較して最も良好な予測結果を得ました。また実際の河川水位データへも応用し、将来の水位を妥当に予測できることを確認しました。今後、洪水などの自然災害をはじめとして、医学、エネルギー、製造業など幅広い分野への応用が期待されます。たとえば既存の洪水予測では物理モデルによるアプローチが一般的でしたが、本手法を使うことで、河川測量や物理パラメータのチューニングを行うことなく、データの背後にある力学系を考慮しつつ簡易かつ高精度に予測できます。中小河川をはじめとする幅広い河川における防災、多数のセンサやIoTのビッグデータからの工学システムの故障の予兆検出、脳の高次元データの時空間パターン解析などにおいて、有用な情報を提供できると期待されます。

5.発表雑誌:

雑誌名:「Scientific Reports」(1月20日版)
論文タイトル:Forecasting high-dimensional dynamics exploiting suboptimal embeddings
著者:Shunya Okuno, Kazuyuki Aihara, Yoshito Hirata
DOI番号:10.1038/s41598-019-57255-4

6.問い合わせ先:

(論文に関する問合せ)
東京大学 生産技術研究所 民間等共同研究員/株式会社構造計画研究所 室長
奥野 峻也(おくの しゅんや)

東京大学 生産技術研究所 教授/ニューロインテリジェンス国際研究機構 副機構長
合原 一幸(あいはら かずゆき)
研究室URL:https://www.sat.t.u-tokyo.ac.jp/

筑波大学 システム情報系 准教授
平田 祥人(ひらた よしと)

(洪水予測に関する問合せ)
株式会社構造計画研究所
気象防災ビジネス室
E-mail:weather(末尾に @kke.co.jp をつけてください)

7.添付資料:

図1 予測手法の概要。本チームが開発した手法は、複数回の最適化計算により予測誤差を最小化する「埋め込み」と呼ばれる数理的手法に基づくパターンを複数求め、個々の埋め込みにもとづく予測結果を適切に統合し最終的な予測結果を生成します。

図2 河川水位および雨量のデータセット(Dawson et al., 2005)にもとづく河川水位予測結果。黒点が観測値、赤線が本手法による24時間後の予測結果。